副社長は束縛ダーリン

踊り場の手前のステップまで下り、手すりに両手をかけてバランスを取ると、そっと顔だけ覗かせてみる。

思った通り、下の階の非常口のドア前でふたりは立ち話をしていた。

悠馬さんはこっちに背を向けていて、向かい合う望月さんの顔と半身だけが確認できた。


男を誘うような目つきと、色気のある赤い唇。

それから……私を断る男性はいないと言いたげな、自信に満ちた微笑。


彼女は悠馬さんの首に両腕を回しかけていて、顔の距離はわずか拳ふたつ分。

キスしようとしているように見えた。


着ぐるみの中で目を見開く私は、なんとかしなければと心の中は大慌て。

でも、駆け下りてふたりの間に割って入れば、「誰?」と問われて正体がバレてしまう。

そうなれば、ユキ丸くんの役を引き受けることになった経緯を白状する展開になりそうで、悠馬さんに呆れられることだろう。

彼に内緒でまた勝手なことをしたと、怒られるかもしれない。


キスを阻止するべきか、正体がバレることを避けるべきかと迷う私。

焦るばかりで決められずにいたら、彼女が少し背伸びをして、斜めに傾けた顔をさらに近づける様子を目にした。


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