副社長は束縛ダーリン
「悠馬、イエスと言ってよ。今のあなたはとても魅力的。私と結婚して、ふたりで望月フーズを経営しましょう?」
「望月……」
「うちの傘下に入っても、名前を残すことは約束するわ。冷凍食品部門をユキヒラ食品として独立させてもいいわよ。決して悪い話じゃないと思うけど」
け、結婚!?
ダメ、絶対にダメ。
それ以上、私の悠馬さんに近づかないで!!
迷っている場合ではなくなり、ついに私は駆け出した。
しかし、踊り場を過ぎた次の瞬間、ひとつ目のステップを見事に踏み外してしまう。
「キャア!」と悲鳴を上げて一気にゴロゴロと下まで転げ落ち、開けた場所でうつ伏せ寝の姿勢で体は止まった。
着ぐるみが防御服のような役割をしてくれて、どうやら大きな怪我はないみたい。
でも……痛い。体も頭も。
よろよろと身を起こした私は、たんこぶのひとつでもできているのではないかと心配し、ユキ丸くんの手で頭を触ってハッとした。
着ぐるみの頭がない!?
クリアになった視界の中で慌てて周囲を見回すと、ユキ丸くんの頭は壁の隅に転がって、こっちを向いて微笑んでいる。
やってしまった……という思いで恐る恐る視線を上げたら、すぐ隣には呆れたような顔で私を見下ろす悠馬さん。
彼から腕を外して一歩後ずさり、目を丸くして驚いている望月さんとも視線が合った。