副社長は束縛ダーリン

◇◇◇

望月さんとの勝負のためのコロッケ製作を始めてから、ひと月半ほどが経ち、十月も後半に突入していた。

東京の街は秋色に染まり、枯葉が足元で乾いた音を立てる。


朝八時二十分、私は悠馬さんと並んで吊革に掴まり、電車に揺られている。

彼のマンションから会社までは電車でふた駅。

平日の多くはこうして一緒に通勤している私たちだが、会話は少なく、気まずい思いでいた。


ひと月半ほど前、社長指示でコロッケ勝負が決まってしまった後に、怒って家を出ていった悠馬さん。

あの日は夜遅くに帰ってきて、そのまま寝てしまったんだけど、翌朝は笑顔で「おはよう」と声をかけてくれた。

それ以降、悠馬さんが不機嫌さを露わにすることはなく、一見仲よく暮らしている私たち。

でも違う。

当たり障りのない話題を選んで会話して、コロッケ勝負について彼は決して触れようとしない。

夜の営みもしばらくないし……やっぱり怒っているのよね……。


< 286 / 377 >

この作品をシェア

pagetop