副社長は束縛ダーリン

副社長室は七階で、悠馬さんはエレベーターホールへ。

一方私の職場は二階だから、混み合うエレベーターには乗らずに、その奥の階段に向かう。

彼の背中を見ながら「お仕事頑張ってください」と声をかけ、通り過ぎたら、「朱梨」と呼び止められた。

振り向くと視線が合い、なんとなくばつの悪そうな顔をしている彼が「あのさ……」と話しかけてくる。


「はい」

「いや……いい。なんでもない」


エレベーターは一階に到着し、「副社長、おはようございます」と挨拶してくる社員とともに乗り込む悠馬さん。

閉まりかけている扉の隙間に目を伏せる彼の顔が見え、それはすぐに私の視界から消え去った。


なにかを言いかけてやめるなんて、悠馬さんらしくない。

私たちの今の関係には、“ギクシャク”という言葉が似合っていた。


開発部のドアを開けてから、午前中は駆け足で過ぎていく。

今、揚げているコロッケは試作品第九十七号。

私のレシピで作られた冷凍コロッケが、大手スーパーマーケットに並ぶのは、十二月八日から十七日の十日間。

十一月末日までにレシピを完成させないと、その後のパッケージ制作や工場での製造に間に合わず、私は焦っていた。


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