副社長は束縛ダーリン

しかし、感激して涙ぐんでいる暇はない。

私はこの勝負に勝たなくてはいけないのだから。


以前、悠馬さんは、たとえ私が負けても望月さんと交際する気はないと言っていたけど、彼女のことだから、すんなり『そうですか』と引き下がるとは思えない。

例えば、悠馬さんとの婚約を勝手に発表したりとか……やりそうで、想像しただけで恐ろしい。

悠馬さんが拒めなくなる状況を、彼女なら作れるような気がして、焦るばかりだ。

それを阻止するためにも、そして私自身のためにも負けられない思いでいる。

なにもかもが望月さんに劣る私だけど、コロッケ開発だけは勝てると、胸を張りたい。

開発部員としてのプライドと、なにより悠馬さんを取られないために、絶対に勝ってみせるという決意。

それらに突き動かされるようにして、私は今日もひたすらコロッケを作り続けていた。


立ちっ放しで半日が過ぎ、時刻は十八時半になるところ。

残業までして補助を頼むのは忍びなく、残ってもいいと言ってくれる先輩たちには頭を下げてお帰りいただいた。

< 293 / 377 >

この作品をシェア

pagetop