副社長は束縛ダーリン

『帰ってください』と言っても、『いいから』と最後まで付き合ってくれたのは泉さんで、そんな彼女も旦那さんがそろそろ帰宅する時間だからと、ついさっき開発室から出ていった。


静かになった開発室に、パン粉を振るいにかけるシャカシャカという音だけが響いている。

私もあと三十分しか、ここにいられない。

本当はここに寝泊まりしたいほどに焦っているが、悠馬さんとの生活を崩したくないので、彼の帰宅前に帰って夕食を作り、簡単な掃除もしておかないと。


この勝負が始まってからの私は一日中忙しく、夜中にレシピを考えているため、平均睡眠時間は三時間ほど。

それがひと月半も続けば、いくら健康な私といえども体に支障が出てくる。


実は今朝から熱っぽい気がしていた。

市販の風邪薬を飲めば、一時的に熱は下がり、倦怠感は和らいで眠気も去っていくけれど、十四時頃に飲んだ薬の効き目はそろそろ切れてきたみたい。

吐く息は熱く、体が重くて仕方ない。

それに寒気もしてきた。

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