副社長は束縛ダーリン
退社する前に、薬を飲まなくちゃ……。
そう思っていたら、急に景色が揺れた。
目眩がして立っていられずに、その場に崩れ落ちる。
倒れるときに、調理台のボウルに手を引っかけてしまったようで、頭からパン粉を被り、ボウルは床にカランカランと転がった。
倒れている場合じゃない。
まだまともなレシピができていないし、私には時間がないんだから……。
そのとき、開発室のドアが勢いよく開けられる音がした。
この勝負に関わらないと宣言した悠馬さんは、今はもう男性たちを牽制しに開発室にやってくることはなくなっている。
だから悠馬さんじゃないと思うけど、一体誰が入ってきたのだろう。
泉さんが忘れ物をして取りに戻ったとか……?
目眩はやまず、目を開けていられずに横たわるだけの私。
駆けつける靴音は誰のものだろう?という疑問は、遠ざかっていた。
思考までもがグルグルと回転しているような気分で、渦の中に意識までもが吸い込まれていく。