副社長は束縛ダーリン
疑問がいっぱいで気になるけれど、今は教えてくれそうにない。
でも『必ず期限までに最高のレシピを完成させてあげるから』と言ってくれたことで、間に合わないと焦っていた心は落ち着きを取り戻している。
頼もしい悠馬さんがサポートしてくれるなら、きっと大丈夫。
私は望月さんに負けたりしないと自信が湧いて、安心感が生まれていた。
「なに食べたい? 今日は朱梨のわがままをなんでも聞いてあげるよ」
横抱きにされたまま、寝室を出てリビングに向かいながら、真っ先に頭に浮かんだのはやっぱりコロッケ。
実家の隣にある肉の松屋は閉店しちゃったけど、あのコロッケがもう一度食べたいな……。
考えるのも禁止と言われているから、それは口にできないが、私が今食べたいのは間違いなくコロッケだった。
連日、試作品を食べ続け、かつ、まだ微熱があるという中でもコロッケを欲するなんて……。
我ながら呆れるほどの、コロッケ中毒だ。
自分がおかしくてフフッと声に出して笑ってしまったら、リビングのドアを開けた彼に「なに?」と問いかけられる。
「なんでもないです。今食べたいものは、お粥です。焼き鮭や梅干しがあればもっと嬉しいです」
「了解。それに百疋屋のフルーツの盛り合わせもつけよう。配達を頼んでおくよ」
銀座の百疋屋といえば、最高級のフルーツしか扱わない果物屋として有名で、私は今まで一度も口にしたことがない。
だって、苺ひと粒が千円ちょっとで、メロンひと玉は数万円するとテレビで言っていたもの。
悠馬さんてお金持ちだよね……と改めて感じながら、今日は贅沢をさせてもらい、彼の気遣いに甘えさせてもらおうと思う。
戦いの間の小休憩。
後半戦を元気に戦い抜くためには、それも必要なのかもしれないね。