副社長は束縛ダーリン
私はいい女?いいえ、ちょうどいい女でした
◇◇◇
悠馬さんが誤解して、私のアパートに駆けつけた日から半月ほどが過ぎた金曜日のこと。
六月の午後の日差しは強すぎて、開発室の窓にはオフホワイトのロールスクリーンが下されている。
いつものように割烹着姿の私は、珍しく壁際の精密機器の前で作業中。
台の上には、茹でてすり潰したジャガイモの入ったシャーレが二十個置いてあり、それらの粘度と水分量を測定器で調べているのだ。
今年度の二班の研究テーマは、『嚥下困難対応食品としての、冷凍コロッケの可能性について』。
簡単に言うと、介護食市場にユキヒラのコロッケを参入させるべく、お年寄りが食べやすいコロッケを開発しようとしている。
細かな研究スケジュールと役割分担が先週決まり、私はタネの固さ調整の担当となった。
舌で潰せるほどに柔らかく、滑らかで飲み込みやすいタネを。
しかし、コロッケの形を保てなければ意味がないので、こうして最適な粘度と水分量を求めて試行錯誤している最中だった。