副社長は束縛ダーリン

全く考えていなかった『インスタ映え』という言葉に、このコロッケを購入した主婦がスマホカメラを向ける姿を想像しつつ、私の視線は専務の通路を挟んで左隣に座る社長に移された。


スリムな体型でダンディな雰囲気を持ち、ダークグレーのスーツを素敵に着こなす社長は、六十代前半。

切れ長二重の目元が悠馬さんに似ていて、悠馬さんの将来もきっと格好いいのだろうと想像させられる。


その社長の目も断面に向けられていて、小皿を持ち上げじっくりと観察した後に、おもむろに口に入れていた。


早まる鼓動の理由は、美味しいと言ってもらえる期待半分と、マイナス評価をもらうのではないかという不安が半分あるから。

いや……期待は八割で、不安は二割かもしれない。

このコロッケが美味しいのは、よく分かっている。

私が作ったというより、アシストチームの、特に神の舌を持つと言われているフードコーディネーターの神野さんの意見で作られたようなコロッケだから、素晴らしいのは間違いなかった。

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