副社長は束縛ダーリン
和やかなムードに包まれる会議室。
私は強い緊張を解いて、ホッと息を吐き出す思いでいた。
最後の締めくくりは社長の言葉。
「北さん、お疲れ様。これほどのレシピをよく短期間で完成させてくれたね。最初は話題性による一時的な利益を期待しただけだったが、こうなると望月フーズとの勝負に勝ちたくなってきたな。とてもいいレシピだから」
これが悠馬さんを賭けた勝負であることを、社長は最後まで知らないまま。
悠馬さんが絶対に他言するなというので、他の誰にも話していない。
だから『勝ちたくなってきたな』という程度の意気込みでも仕方ないけれど、『絶対に勝たないといけないんですよ』と、私は心の中だけで社長に意見していた。
頭に浮かぶのは、ショッピングモールのレストランで話したときの、余裕の笑みを浮かべた望月さんの顔。
私が相手なら、悠馬さんを手に入れることができるという自信が表情に透けていた。
望月さんの顔を思い出したら、急に心に不安が広がりだす。
悠馬さんが力を貸してくれてから、きっと勝てると安心していた私だったが、一昨日、彼女から私のスマホに電話がきて、それからまた心が落ち着きをなくしていた。