副社長は束縛ダーリン

それを聞いた私は、思わずライバルの心配をしてしまった。


「あの、コロッケは庶民のおかずなので、値段が高いと全然売れないですよ……?」


電話の向こうにクスクスと笑う声がする。

彼女はそんなこと分かりきっていると言いたげな口調で補足した。


『ユキヒラ食品のコロッケは、庶民的な低価格でもいいと思うわ。でもうちは違う路線で売りたいの』


生活感あふれた庶民の日常の食卓にのるのがユキヒラ食品のコロッケなら、望月フーズのコロッケは特別な日の食卓や、中流階級以上のおしゃれなテーブルにのせたいという説明だった。


そう言われても、特別な日なんて頻繁にあるわけじゃないし、やっぱり高級コロッケを手に取る客は少ないのではないかと疑問に思う。

そんな私に彼女は、自信ありげな声で言葉を続けた。


『販売個数の勝負なら、あなたが勝つと思うけど、この勝負は売上額で決まるのよ。
あなたのコロッケはきっと二百円代前半の設定でしょう? あなたたちが二パック売っても、うちがひとパック売れば勝てるのよ』


そっか……。

それを聞いた途端に焦り始めた私だけど、アシストチームのレシピなんだから大丈夫と自分に言い聞かせ、落ち着こうとしていた。


望月さんはなぜ、そんなことまで教えてくれるの?

私を慌てさせて楽しもうという魂胆なら、その策に引っかかるわけにいかない。

< 316 / 377 >

この作品をシェア

pagetop