副社長は束縛ダーリン

『フードコーディネーターとしての腕は、彼より私の方が上よ』

「え、嘘……」

『本当よ。去年、西麻布に神野さんがプロデュースしたイタリア料理店がオープンしたの。でも……』


その話によると、神野さんのプロデュースの店が開店したひと月後に、望月さんにも別のイタリア料理のシェフから西麻布に開店したいという依頼が来たそうだ。

店舗は偶然にも、二軒隣。

同種の店が近くにできると、どちらかの経営が傾くのは仕方のないこと。

それから半年後に生き残った店は、望月さんがプロデュースした方だったという話を聞かされた。


血の気の引く思いでスマホを握りしめる私。

彼女は私の顔が見えていないはずなのに、『そんな顔をしないで』と明るく笑った。


『神野さんとの勝負なら私が勝つけど、この対決は朱梨さんとの勝負よ。まだどうなるか分からないわ』


フォローしてくれるようにも聞こえる言葉だけど、きっと違う。

私がなにも言わなくても、レシピのほとんどを神野さんが考えたのだろうと彼女は見抜いている。

声の調子からそう感じて、『もう勝負はついたわね』という彼女の心の声が聞こえる思いでいた。

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