副社長は束縛ダーリン

私の実家は商店街の靴屋で、隣の店は松屋という肉屋だった。

忙しい両親の代わりに祖母が夕食を作ってくれたけど、そのメニューは子供向けではなく、どうしても物足りなさを感じてしまう。

そんなときに祖母は五百円玉を私に握らせて、こういうのだ。


『肉の松屋でコロッケ買っておいで』


今はもう閉店してしまい、二度と食べられない松屋のコロッケの味を、私の舌がしっかりと覚えている。

このレシピ表は松屋のコロッケを再現したもので、それに私らしさを一点だけ付け加えたものになっている。

その私らしさとは、使用するジャガイモをキタアカリ百パーセントにすること。

松屋は男爵芋だったけど、私はキタアカリにしたい。

だって、私の名前のジャガイモだから。


手書きのレシピ表を社長に押しつけるようにして渡すと、訝しげな目で見られてしまう。


「肉の松屋のコロッケ、キタアカリバージョン? なんだこのレシピは。材料も工程もざっと見る限り普通だが……」


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