副社長は束縛ダーリン
そう、肉の松屋のコロッケは至って普通。
強いて特徴をあげるとするなら、調理油はラードとサラダ油を一対一でブレンドしていることくらいだろうか。
ジャガイモに混ぜる合挽き肉も、玉ねぎもパン粉も普通すぎる。
それでも、これが世界で一番美味しいコロッケだと私は信じていた。
「おい、朱梨」と隣から私の肩に手を置いたのは悠馬さん。
眉間に皺を寄せるその顔を見ると、『また勝手なことをする気なのか』という非難の気持ちが読み取れる。
私のためにアシストチームを結成してくれた悠馬さんには感謝しているし、その協力を無下にするようなことを言っているのは分かっているので、ばつの悪い思いが込み上げた。
悠馬さん、ごめんなさい。
でもミートチーズコロッケじゃ、望月さんには勝てないんです。
それに他人のレシピで勝負して負けてしまえば、私、きっと一生後悔するから……。
「社長、十分ほどお待ちいただけないでしょうか? このレシピのコロッケを大至急、揚げてきますから!」
返事を待たずに会議室を飛び出した私は、開発室に向けて廊下をひた走る。