副社長は束縛ダーリン
私たちをからかうのは社長だけではなかった。
後列に座る、開発部員の男性たちの間から声が飛ぶ。
「副社長、早めに決めた方がいいと思いますよ。朱梨ちゃんの男性人気は高いので」
「そうですよ。我々を牽制しに足を運ばれるより、結婚した方が安全です」
「そういえばこの前、他部署の男にデートに誘われて、北さんは困ってましたよ」
笑いに包まれたこの雰囲気なら、冗談を言ってもよさそうだと思ったのかもしれないけど、そんな危険なことを悠馬さんに言わないでほしい。
案の定というべきか、途端に悠馬さんの嫉妬心に火がついて、ジロリと睨まれる。
慌てる私は首をブンブンと横に振り、開発部員の男性たちの言葉を否定していた。
長谷部くんの件以降、誰からもデートに誘われていないし、男性人気もないから。
みんなにとっては軽い冗談でも、そんなことを言われたら、私は家から出してもらえなくなりそう。
社長も専務もみんなが楽しそうに笑う中で、悠馬さんがカタンと椅子を鳴らして立ち上がる。
「会議はこれで終了で。皆さん、さっさと自分の部署に戻って仕事してください。
北さんは残ってね。ゆっくりと事情説明してもらわないと」
悠馬さん、社内向けの紳士的な笑みを浮かべていても、目だけ笑っていないのが余計に怖いです……。
明るい雰囲気の中で、会議室を出ていく社長ややみんなを見送りながら、私の背には冷や汗が流れ落ちていた。