副社長は束縛ダーリン
十日間の売上額の勝負はまだ始まったばかりだというのに、気が気じゃない。
悠馬さんは土曜の今日も仕事が入っていると言って、八時に自宅を出ていった。
ひとりきりの家の中、落ち着かない気持ちを紛らわせようと家事に励んでいたが、掃除も洗濯も終えてやることがなくなると、我慢できずにマンションを飛び出して、一番近くにあるゴトーヨーカドーに向けて走っているのだ。
息を切らせて店に駆け込むと、まっすぐに冷凍食品売り場へ。
十時半というこの時間、買い物客はまだ少なくて、冷凍庫のガラスの扉を開けて商品を手に取る人は誰もいなかった。
ウェブ上だけの宣伝だし、冷凍コロッケのために朝からスーパーマーケットに来る人はいなくても不思議じゃなよね……。
納得しつつも残念に思い、弾んだ息を整えながら、私の開発したコロッケに近づいていく。
ガラスの扉の向こうには、他の冷凍食品の二倍のスペースを取って、私と望月さんのコロッケがギッシリと並べられていた。
望月さんの方はパッケージも高級感漂うデザインとなっている。
紫と金色のパッケージに、格調高い字体で『大人の贅沢コロッケ』と書かれていて、三種のコロッケの写真がなんとも美味しそう。
四百九十八円は高いけど、一度くらいは買ってみようかという気持ちになりそうな気がした。