副社長は束縛ダーリン
パッと顔を上げた私は買い物カゴを床に置くと、喜びのあまりに警備員の手を取って、両手でブンブンと振るように握手した。
その手はムッとしている悠馬さんによってすぐに外されてしまったが、警備員のおじさんは声をあげて笑ってくれた。
「ひとパックじゃなく、十パック買って冷凍庫に入れておこうかな。知り合いにも宣伝しておきますよ。かわいいお嬢ちゃんが、一生懸命に作ったコロッケだから、ぜひ買ってやってとね」
それから警備員と別れて、カゴの中の品物を買い、家に連れ帰られた私は今、悠馬さんに叱られているところ。
ソファーに座らされて、その脇に腕組みした彼が立ち、注意の言葉はかれこれ十分ほど続いていた。
「勝負の期間中は、今説明したことを守ること」
「はい」
「売れ行きが気になるのは分かるけど、小売店に迷惑をかけるのはやめてよ」
「はい、すみません」
真摯に自分の態度を反省し、悠馬さんの言葉を心にとどめようと努力していた。
小売店への迷惑もそうだけど、悠馬さんをこれ以上煩わせるようなことをしたくない。
助けに来てくれた悠馬さんは、どうやらやりかけの仕事を切り上げて、会社からタクシーであの店まで来てくれたようだ。
取り調べの部屋に連行される前に来てくれたことに、心から感謝している。