【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 

話題が豊富で人付き合いの上手い専務のお陰で、私は本当にただ専務の影に控えて、時折飲み物を受け取ったり、笑って頷いたりするだけで十分だった。

にこやかに談笑する専務をながめながら、ほっと息を吐いていると、社長夫人と大野さんの姿をみつけて軽く会釈をする。


薄萌葱色の着物の裾に淡い桃色の小花が散った上品な訪問着を着た奥様が、柔らかく微笑み返してくれた。

垂れ目がちの可愛らしい笑顔。
副社長の弘人さんは男らしい社長似で、専務はきっと奥様似だ。

「冬木さん、ずっと立っていて疲れていない? 私疲れてしまって、こっそり抜け出して大野さんとロビーでお茶をしてたのよ。冬木さんも誘えばよかったわね」

奥様は私のそばまでくると、口元を手で隠しながらそう言って首をすくめる。
還暦はとっくに超えているはずなのに、年齢を感じさせない無邪気さに、思わず心が和んでしまう。

「ありがとうございます。でも、こういう場は初めてなので、とても勉強になります」

エグゼクティブ同士の会話にはついていけないけれど、それぞれのクセや立ちふるまいから、この人はどんな性格なのかなと推測するのは面白い。
そして彼らと秘書との距離の取り方もそれぞれ違って勉強になる。

美しい秘書を常に横に置き、エスコートをしながら過ごす人。
背後にいる秘書にさりげなく耳打ちをされつつ名刺を確認する人。
一言二言指示を出しただけで、後は隅に控えさせている人。
もちろん秘書を同行させていない人もたくさんいる。

 
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