【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 

『専務、全体朝礼のお時間ですが』

スピーカーから流れてきたのは、ベテラン男性秘書の乾さんの声。

「今行く」

短くそう言って通話を終わらせた専務が、呆然としたまま動けないでいる私のことを見下ろした。

「……悪いけど、俺は君を他の男に渡す気はないから」

繰り返されたキスで濡れた私の唇を、綺麗な指でなぞりながらそう言う。
その言葉の意味が分からず、瞬きをしている間に、専務は役員室を出ていった。

ぱたんと扉が閉まり、ひとり残された部屋で、私は口を覆って力なくしゃがみこんだ。

「どうして……?」

どうして、専務が私にキスなんて……。

たった今されたキスを思い返しながら、恐る恐る自分の唇に指で触れる。
確かに覚えている、温かい感触。まるで恋人にするような、やさしいキス。

その時、強い雨が、役員室の窓を叩いた。
バラバラと、ガラス玉が散らばるような、大きな雨音。

その音に、胸の奥から十年前の記憶が気泡のように浮かび上がって、心が苦しくなった。
十年前の夏祭りのことを思い出した。

 
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