【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
「ね、ハチ。私の髪、いい匂いする?」
今日、髪に微かに触れた専務の鼻先の感触を思い出しながら、ハチにそう聞いてみる。
でもハチはそんなことしらんぷりで、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。
床に倒れ込んだまま、自分の髪をひとふさとり、鼻先に近づけて匂いをかいでみる。
言われれば分かるかも、程度の微かなホワイトフローラルの香り。
自分では決して選ばない可愛らしく高価なブランド物のシャンプーは、海外出張に行った社長からのお土産だった。
せっかくもらったからと使ってみたけれど、こんな華やかな匂いが自分に似合うわけがない。
専務に、地味な秘書のくせに色気づいてる、なんて思われなかったかな。
似合いもしない香りを纏ってバカみたいだ、なんて思われなかったかな。
そんなマイナス思考がぐるぐる頭を回ってしまう。
もう一度額を床にコツンとぶつけると、ハチに柔らかなしっぽでおでこを撫でられ、じわりと涙がこみ上げてきた。
小さな頃からずっと、私は手のかからない子供だと言われてきた。
大人の言うことを守り、教室の隅でじっとしているような、手のかからない目立たないタイプ。
そんなもともとの地味な気質に、さらに磨きが掛かったのは、高校生の時。はじめてできた彼氏に振られたことがきっかけだった。