【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
「専務……」
じわりとこみ上げてきた熱いものを無理やり喉の奥に押しとどめ、口を開く。
いつものように、抑揚のない冷静な声で。
「社長との約束があるのに、動物病院まで付き合わせてしまって申し訳ありませんでした。帰りはタクシーで帰るので、もう行ってください」
そう言った私に、専務は眉をひそめた。
「何言ってんの。そんな顔した詩乃ちゃんを放っておけるわけないだろ」
いつもどおり振る舞っているつもりなのに、今の私はそんなにひどい顔をしてるんだろうか。
「大丈夫です。ひとりで帰れます」
顔をそらした私の肩を、専務は強く掴んで自分の方に振り向かせる。
まっすぐに私の顔を見つめ、首を傾げて問い詰める。
「俺の前ではそうやって平気なフリをして、ひとりで家に帰って、ひとりで泣くの?」
やめて、そうやって人の領域に踏み込んでこないで。
今、優しい言葉をかけられたら、必死に押しとどめてる弱い部分が溢れ出してしまう。
「泣いたりなんてしません。ハチがもう老猫なのは分かってました。寿命なんだから仕方がないって……っ」
突っぱねるように早口で言った私の言葉を聞きながら、専務がイライラしたように舌打ちをした。
そして次の瞬間、専務が私の言葉を遮るように手を伸ばした。
気がつけば私は、専務に強引に抱きしめられていた。
「……っ、専務?」