【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 
そう思って顔を輝かせた私の隣で、専務が小さく唸る。

「でも、猫の未練ってなんだろう。想像もつかない」
「……確かに」

人の未練ならまだ想像できそうだけど、猫のハチが、一体なにが心残りで私に取り憑いたのかなんて、見当もつかない。

「バッカねぇ」

難しい顔で黙り込んだ私と専務を見て、クミコさんが鼻で笑った。

「猫の未練なんて、簡単じゃない。動物の本能を満たしてやればいいのよ」
「本能?」
「なんだっけ、三大欲求。食欲、性欲、睡眠欲? 美味しいもの食べて、ふかふかのベッドでいっぱい寝て、テキトーな男とセックスしちゃえば、勝手に満足してくれるんじゃないの?」
「な……っ」

クミコさんの口から出た『性欲』という言葉に、思わず全身強張る。

この人は、なんてことを言うんだ! 『テキトーな男とセックスしちゃえ』なんて……! そんなの! そんなのっ!!

というか、セックスって、そんなあからさまな単語をはっきりと言わないでほしい!

「なに純情ぶってびっくりしてんのよ。あんたいい歳して、まさか処女だとか言わないわよね?」
「いや、あの……、べつに」

しょ、処女って……!

落ち着け、落ち着け。
取り乱しちゃダメだ。
ここで動揺したら、恋愛経験がゼロなことが専務にバレてしまう。

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