【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
処分できないまま、以前と同じく床に置かれたハチの餌皿。
私はその前にバタリと倒れ込んで、額を床にこすりつけた。
老衰だったんだから仕方ない。ハチは十分すぎるくらい長生きしてくれた。
それはちゃんとわかってる。
いつかお別れがくることも、ちゃんと覚悟してた。
だけど……。
「ねぇ、ハチ。成仏できずに私に取り憑いちゃうくらい、ハチはなにか不満があったの?」
そんなひとりごとをつぶやいて、床に頬をつけたまま視線を上げ、もう使われることのない餌皿をみつめる。
ハグハグと一心不乱に餌を食むハチの姿を思い出して、じわりと鼻の奥が痛くなる。
「この部屋で私とふたりで過ごした暮らしは、幸せじゃなかったのかな……」
問いかけてみても、返事が返ってくるはずはない。
わかっていても、聞かずにはいられなかった。
床に倒れ込んだまま、自分の頭に手を伸ばす。
ハチとそっくりの、柔らかな猫耳。
その懐かしく愛おしい手触りに目頭が熱くなって、床の上でぎゅっと体を丸めた。