【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 
気持ちのいい食べっぷりだなと思っていると、「そういえば」と声をかけられた。

「はい」
「あいつがどうして綾崎グループを継ごうって決めたか知ってる?」

口をもごもごさせながらそう言われ、私は頷いた。

「十年前の台風災害の時に、社長の決断力と仕事ぶりに感銘をうけたと」

いつか取材を受けた時の専務の言葉を思い出しながらそう言う。

「それもあるけど。本当は、悔しかったからだよ」
「え?」

悔しかったって、どういう意味だろうと首を傾げると、新見さんはいたずらっ子みたいな顔で笑った。

「当時大学生だったあいつは、視察に向かった社長と一緒に、ヘリで子会社の綾崎フーズの缶詰をいっぱい持って被災した地域にボランティアに行ったんだって。だけど缶詰なんてあんまり喜んでもらえないのな」

その言葉に、私は曖昧に首を傾げる。

「正直ライフラインの止まった避難所で、冷たいおにぎりと缶詰渡されて、ありがたいとは思っても心から嬉しいとは思わないじゃん。それは仕方ないことなんだけどさ、あいつはそれが悔しかったんだって」

新見さんはそう話しながら、注文したドリンクを運んできた店員さんからキウイのカクテルの入ったグラスを受取り、私に手渡してくれる。

「ありがとうございます」と会釈をしながらグラスをもらい、一口飲んでまた新見さんが話しだすのを待つ。

 
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