おはよう、きみが好きです
「八雲くんに、俺達も感謝しなきゃならないな」
「うん……」
駆けつけてくれた透お兄ちゃんにそう言われて、心底思う。
今、あたしがこうして無事にいられるのは八雲のおかげだって。
でも、恩返ししたい人は、未だに目覚めない。
その後、スマートフォンを確認すると、日付は事故当日のものだった。
学校で、あたし達のことを聞いたのか、環奈や夕美、紫藤くんや中野くんから着信やメールが鬼のように届いていた。
着信12件、味読メール40件。
普通だったら、「げっ」って引くレベルの件数。
内容は全て、あたしと八雲を心配しているというメッセージ。
あたしは、起こった出来事をメールで返信した。
そして、スマートフォンを床頭台に置き、ぼんやりと窓の外へ視線を向ける。
「そろそろ日が暮れる……」
ねぇ八雲、どうしてあたしは目覚めて、八雲はまだ起きないの?
あたし、待ってるから……。
お願い、どうか早く目を覚まして。
***
「あなたが、八雲の助けたお嬢さんね」
病室に来てくれたのは、あたしの家族だけじゃなかった。
夕方に、八雲のお父さんお母さんがあたしを心配して顔を見に来てくれたのだ。
「あの……本当に、あたしのせいで八雲……くんをひどい目に合わせてしまって……っ」
なんて、お詫びすればいいのか分からない。
あたしではなく、八雲が怪我をしてしまった。
代われるものなら代わりたい。
でも、そんな事が出来るわけもなく……。
その現実が、神様を恨みたくなるほど辛かった。
「あなたは、泪ちゃんね。八雲から聞いてたわ」
「え、八雲くんが……?」
「えぇ、自慢の彼女だって」
八雲のお母さんが、あたしを責めるでもなくニッと笑う。
この笑い方が、八雲にそっくりだなと思った。
この笑顔を、もうずっと見てない気がする。
最近のあたしたちは、すれ違ってばっかりだったから。
それが切なくて、また泣きそうになった。