おはよう、きみが好きです
「あなた覚えてないの?バイクに跳ねられたのよ?」
「バイクに……跳ねられた?」
おいおいマジかよ、なんでバイクになんて……。
そこまで考えて、不意に『八雲』と名前を呼ばれた気がした。
その瞬間、ふらふらと歩く女の子の姿と、狭るバイク。
それに必死に駆け寄って、庇うように跳ねられたことを思い出した。
「事故の衝撃で、一時的に記憶がハッキリしなくなるって先生も言ってたし……混乱してるのかもしれないわね」
「いや、覚えてる……俺、覚えてる」
「え……?」
お袋の言葉に、ただ『覚えてる』とだけ返すので精一杯だった。
だって、なにか体の奥底から語りかける声が聞こえるんだ。
『会いに行け』、『約束を果たせ』って。
「お袋、俺どれくらい寝てたんだ?」
「えっと……2日間よ」
2日も眠ってたのかよ!?
俺は、アンタに会いに行かなきゃなんねーのに。
こんな所で、寝てる場合なんかじゃないのにっ。
「とにかく、先生を呼ぼう。ナースコールを……」
「なぁ、俺と一緒にいた女の子は!?」
「ん?お前の彼女さんのことか、それなら隣の病室に……」
親父の言葉に、俺は裸足でベッドを降りた。
その瞬間に、クラっと目眩がしたけど、それでも走った。