僕はあの街が嫌いだ



人間は一期一会だから。


だから、仕方がない
と自分に言い聞かせていた。






ずっとずっと会いたかった。
ひと目でいいから会いたかった。
元気にしてるか知りたかった。
彼が私のことを忘れていても元気にしてるとか知れるだけでも良かった。

でも、彼は私達になんの手がかりも残さずに消えた。
だから、誰も彼の行方を知らないし
彼がどうしているかなんて噂も立ったことすらなくて。
まだ自分の携帯なんて持たせてもらえないぐらいの頃に遊びたいとき、私はよく直接彼の家の電話を鳴らしていた。
その頃の私が暗記していた番号は自分ちの番号、それと彼の家の番号だけ。



だからいなくなった最初の頃、そのおしなれた唯一の番号をわたしは何回も押した。彼に会いたくて。



だけど



もちろん繋がらなくて。
彼と繋がれる唯一の方法が消えた時、

わたしは諦めた。



諦めてしまった。




もう一度、もう一度会いたいけれど顔が鮮明に思い出せない。
私の記憶にあるのはあの頃の楽しい遊びの記憶と

『ゆーくん!』と私が呼び、

彼が明るく返事をする記憶。




それだけ。









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