マ王の花嫁 
「ねえ、フィリップ」
「なんじゃ」
「あなたは王宮で働いていたの?」
「・・・昔な。近衛兵にいた」
「そう」
「あの頃のワシは、あまり誇れるものではないからのう。話したくないんじゃ。すまんのう」と言ったフィリップは、ずっと馬車の窓から外を見ている。

年老いた灰色の瞳は、景色ではなく、昔の自分(フィリップ)を顧みているのかもしれない。
私の育て親として、フィリップとは15年一緒に暮らしてきたけど、今までフィリップは、一度も過去のことを話してくれたことがなかったから・・・。

私の膝に座っていたシーザーが、フィリップの膝に移動した。
フィリップは、外を見ながら、節くれだった大きな手でシーザーの黒い巻き毛を撫でると、キュイーンと鳴くシーザーの声が、狭い馬車内にこだました。

その鳴き声は、嬉しそうで、悲しそうに響いていた。

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