よいシエスタを(短編集)
リビングに、いつも彼が使っている布団と、わたしのベッドから持ってきて作った簡易寝床を並べて敷いて、その上に正座をしながら彼の説教を受けた。
あれだけ止めたのにホラー映画を観に行った挙げ句、怖くて一人で眠れなくなるなんて意味不明。しかもそれを隠したままどうにか泊まってもらおうと画策するなんて間抜けすぎる。百歩譲ってホラー映画を観に行くのは良いとしよう。話題作を観たいっていうのは分かる。でも怖くて一人でいられないなら素直にそう言えばいいじゃないか。俺だって鬼じゃないんだから、頼まれれば頷くのに。もうこんな間抜けなことはすんなよ、いいな?
「はい、すみませんでした……。これ、ほんの気持ちですが、添い寝代です……」
彼に頭を下げながら、さっき彼がお風呂に入っているときに用意したポチ袋を差し出す。
それを見て彼は「本当に用意したのか」と言ってふはっと噴き出し、笑う。
「これ使って、次の休みに映画観に行こう。今度はコメディーとかファンタジーとか、楽しい気分になるやつ」
さっきまでの悪魔の笑みはどこへやら。その優しい提案に、わたしはこくこくと二度頷いた。
彼は六十パーセントの優しさと、四十パーセントのSっ気でできていると、わたしは思う。
悪魔のような不敵な笑みで、鬼のように残酷で無慈悲なことを言ったりもするけれど、基本的には優しい人だ。
だからホラー映画は行かないほうがいいと忠告してくれるし、わたしの態度であれこれ察して泊まってくれたりもする。
添い寝代も、自分で言い出したくせに、ふたりのデートに使おうと提案してくれる。
わたしはその優しさに甘えて、今度は素直に、恥ずかしがらずに、先程以上の謝罪と懇願を声に乗せて、本日最後のお願いをすることにした。
「お願いします、わたしがお風呂に入っている間、脱衣所にいてください……」
言うと彼は、呆れたように笑って「仕方ねぇなあ」と立ち上がった。
彼の優しさ。それは陰ったわたしの心に射した、一筋の光のようだった。
(了)