よいシエスタを(短編集)
そんな僕らは「初めての旅行を良いものにしたい」という気持ちが強すぎて、一泊二日しかないというのにお互い暴走してしまって、沖縄や京都や広島、果てはイタリアやドイツまでが候補に挙がった。
でも大量の旅行雑誌を買おうとしたところで冷静になり、県内の温泉ということで無事着地した。
温泉なら、地元宮城県にもたくさんある。
例えば仙台市内なら秋保温泉や作並温泉、ちょっと遠出するなら遠刈田温泉、日本三景を楽しむなら松島温泉、湯めぐりをするなら鳴子温泉郷……。
僕の部屋のこたつに潜り込んで、彼女は数ある温泉地のページを楽しそうに眺めている。
僕も隣に寝そべって、同じページを見下ろした。
「メインは温泉だけど、他にやりたいことある? それで目的地を決めよう」と、彼女は持参したメモ帳にあれこれ書き出して行く。仕事で使っているメモ帳なのか、隣のページには「発注期日」だとか「値段変更」だとかあれこれ書き込んであるけれど……良いのだろうか。
「松島で遊覧船に乗るとか」
「瑞巌寺とか、伊達政宗の歴史館とか」
「歴史巡りするなら、青葉城も行かないと」
「青葉城行くなら白石城も行かなきゃ」
「あれ、小林くん意外に歴史好き?」
「俺わりと好きだよ。戦国時代とか」
「じゃあ歴史巡りかなあ」
「でも体験とかもしてみたくない?」
「こけし作りとか?」
「それだと遠刈田温泉かな」
「工場見学とかは?」
「ああ、ウイスキーとか笹かまの工場もあるしね」
「この際温泉に全てを捧げるとか」
「じゃあ鳴子で湯めぐりか」
「鳴子といえば、オニコウベってあるじゃん。あれ漢字だと鬼の首って書くんだよね」
「凄い地名だよね」
「なんか坂上田村麻呂が斬った鬼の首が飛んできた場所らしいよ」
「へえ、だから鬼首なのか」
「鬼首といえばスキー場っていつオープンだっけ」
「十二月中旬くらいかなあ」
「じゃあちょっと早いか」
そんな雑談をしながらも、彼女はさらさらと、やりたいことをリストアップしていく。
お互い好き勝手言い過ぎて、まとめるのが大変そうだけれど「それも旅行の楽しみのひとつだから」とのことらしい。