よいシエスタを(短編集)
お月さまの日
【お月さまの日】
夜中にふと目が覚めると、いつの間に帰って来たのか、彼が隣で健やかな寝息をたてていた。
半開きの口からは、アルコールの香りがする。今夜もまた浴びるほど飲んできたみたいだ。
いくら付き合いだとしても、いくらお酒が好きだとしても、毎晩こんな飲み方をしていたら身体を壊してしまうだろう。
労いと心配の気持ちを込めて彼の肩を撫でると、彼の唇が動き出し、そこから知らない女の名が漏れた。
「ルナ……うーん、ルナちゃあん、もう飲めないってばあ、えへへへへ……」
心臓が跳ね、頬がかあっと熱くなる。
なんてことだ! 寝言で浮気がバレるなんて、漫画やドラマの中の出来事じゃなかったんだ!
フィクションの世界でしか見たことがない事態に遭遇し、寝起きで下がっていた血圧が一気に上昇した気がした。
試しにもう一度彼の肩を撫でると、へらへら笑いながら「ルナちゃん」の名を呼ぶ。
さらに撫でると、今まで聞いたことがないような猫撫で声で「ルナちゃあん」と漏らし、わたしの手にすり寄ってくる。
なんてことだ! 肩を撫でると「ルナちゃん」の名を呼ぶのか!
面白い。話しかけたら答える人形みたいだ。
童心に返ってしばらく「ルナちゃん」遊びを楽しんだあとで、カレンダーにお月さまのマークを書き入れた。