よいシエスタを(短編集)
うなじスターダスト

【うなじスターダスト】




 美波ちゃんと知り合ってから、十年が経つ。

 高校時代はずっと同じクラスで仲良くて。おれが専門学校、美波ちゃんが大学に進学してからもよく遊んでいて。社会人になってからはおれが働いている美容室と、美波ちゃんが働いている会社がご近所で。一人暮らしをしているアパートも近くって。

 美波ちゃん曰く「気を遣わなくて良いから楽」で、「友だち以上恋人未満」だけれど、おれたちの関係を一言で表すと「腐れ縁」らしい。

 そんな話をするといつも「腐れ縁」で片付けられるから、おれも「そうだねー」って同調するけれど……。

 本当は、美波ちゃんが好きだ。ずっと前から、美波ちゃんが好きだ。


 でも美波ちゃんはたぶん、おれのことを男として見ていない。だから気軽で気楽に遊んでくれるし、たまにおれの部屋に泊まっていったりもする。おれがいるのに、無防備に寝こけてしまう。そのわりに、一定の距離を取って、あまり踏み込んでこない。

 おれたちの関係は「友だち以上恋人未満」ではあるけれど。美波ちゃんは「腐れ縁」と言うけれど。おれとしては「いとこ」や「親戚」に近いんじゃないかって思う。
 昔から知っていて仲は良いのに、異性としては見ない。もはやこれは「身内」だ。


 前に、美波ちゃんがスーツの男と一緒に歩いているのを見た。会社の近くだったし、たぶん同僚の人だとは思うけれど、おれは……。おれはあんなに可愛い顔で笑う美波ちゃんを、今まで見たことがなかった。

 どうしようもなく嫉妬した。
 でももし焦って告白して、振られて、今までの関係が全部終わってしまったら……。

 だったらただの腐れ縁として、今まで通りの関係のままでいたほうが一番良いと思った。



 だけど一度芽生えてしまった激しい嫉妬心は、なかなか消えてはくれず、何かしなくては気が済まない。
 何か、何か……。例えばあの男がうちの美容室に来たとき、変な髪型に仕上げるとか……。いやそれは店に迷惑がかかる。じゃああの男が見ているときに、美波ちゃんと手を繋いで歩くとか……。いや、そもそも美波ちゃんはおれと手を繋いでくれない。


 結局何も思いつかないまま時間だけが過ぎていった。



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