真面目なキミの、
、いつもの顔




カリカリカリカリ……

シャーペンの芯が紙に削られていく音が、静寂に包まれたあたしたちの間に落ちる。

それは休みなく、忙しなく、響いては消えていく。

でも、その音の発信源はあたしじゃない。

その静寂を切り裂いたのは、目の前でせっせと勉学に励む我が幼なじみだった。

ギロリと、元々鋭い切れ目が、レンズの奥で更に鋭く主張する。


「……おい、勉強しろよ」

「…っあーー!もう無理!!」


ベクトルってなに!?なんなの!?

力の向かう方向と大きさ?
そのアルファベットの上の矢印なに??
日本語なのに意味わかんないのは何で???

シャーペンを机の上に投げたあたしは、ゴロンと背中からそのまま寝転がった。

目をきつく閉じたら、クーラーの稼働音と、蝉の声を強く感じた。

床が冷たくて気持ちいい。


「もー無理!頭おかしくなりそう!!」

「お前の場合はもうそれ以上おかしくならないぞー」


その、あたしを容赦なく馬鹿にする言葉は、視線を数学の問題から離すことなく発せられた。

どうせなら、もっとそれらしい顔して言えばいいじゃん!
こっちも見ないとか本当態度悪い!!

何か言い返さないと気がすまないあたしは、ぐんっと勢い良く起き上がって、反駁した。


「あたしの場合はって何よクソ真面目!!」

「おいバカ、口は慎めよ」


そこで初めて私を見た彼は、ニヤリとすると、男らしい手をにゅっと私に伸ばしてきた。

見てよこの悪い顔!

その手を避けようと思った時には既に遅く、あたしの頬はぐにゅっと挟まれていた。


「あにふんのよ~!」

「あ?聞こえねぇなぁ?」


察せよアホ!!
ってか絶対分かってんでしょう!!

精一杯睨みつけても何にもならないことは分かっているけど、分かっていても睨まずにはいられない。

手をジタバタさせるけど、あたしより長い腕を持つ彼に、反撃なんて出来るはずもなく、上手く動かせない口で形だけ謝ってみた。


本当悔しい…!!
来世は男にしてください神様ぁ!!!


「っ~~~!!ふぁいふぁいふみまへんえひたはいめふんっ」

「ん~?ちょっと何言ってんのか分かんねぇなぁ」


ふっ、と余裕な笑顔を見せつけられて、シャーペンを握る手に力がこもる。

流石のあたしも堪忍袋の緒が切れそうだよ…?

確かに手は届かないけれど、手より長い場所がある。

天才のあたしは分かってる。


"手が出せないなら、足を出せばいいのよ"


「ふんっ!!!」


思いっきり、がら空きのボディに右足を入れた……はずだった。


「っ…!!!」


実際には、ぱしりと片腕で止められてしまったけれど。

くっそぅ!!!

両者、力で押し切ろうとするが、男子の腕力と女子の脚力は、割と拮抗していたらしく、なかなか決着が付かない。


「おっ前なぁ!女が足出すとか無しだろ!?」

「うふっあい!クソまじめ!!(うるっさい!くそ真面目!!)」


醜い睨み合いの末、この戦いが終わったのは肇が手を離した時だった。


「っしゃあ!!あたしの粘り勝ち~!」

「お前は女じゃない…」

「残念でした~、私は生物学上認められた立派な女子ですぅ~~」


怒りを込めて、ウザったらしく言ってやったら、相当ウザかったらしく、肇は人一人殺せそうな目つきをした。


< 1 / 28 >

この作品をシェア

pagetop