真面目なキミの、
そうこう言い争ううちに我が家に到着。
あたしが鍵を開けている時、肇はずっと路地の方を睨んでいた。
中に入ってから、くるりと振り返って、
「さぁ帰った帰った!」
そう一刻も早い帰宅を促す、つもりだったのに……
ガタッと大きな音がして、見れば、肇が靴箱に寄りかかっていた。
慌てて支える。
「ちょっ!大丈夫とか言ったのはどこのどいつよ!?」
「くっ、そ……」
立つのもやっとな感じの肇を見て、判断した。
……もう、バカはどっちだよ。
右腕を、あたしの肩に回して支えた。
こうして近づくと、身体自体、かなり熱い。
そのまま玄関に座らせて、靴を脱がせる。
「…おい、和香……?」
「黙って、言う通りにしてよ…」
「バカ、俺は、帰れる、から…」
「一人で歩けもしないくせに?」
「………」
靴を脱がせながらジロリと睨むと、肇はそっぽを向いた。
むぅ、可愛くないなぁ……
「さ、立つよ。そこのソファまでの辛抱だから…せーのっ」
合図とともに立って、ソファに放った。
大っきいソファはこの為なのかな…?
我が家のリビングはテレビ前のローテーブルを囲むように、コの字型の大きなソファがある。
「ふぅ……ちょーっと待ってて」
キッチンの冷蔵庫に何か無いかと漁る。
「何もしなくていい。ってか、晩飯は…」
「自分のことだけ考えてなさいよ、くそ真面目」
「…はぁ…っ…うるせぇ…」
「悪態が付けるなら元気だね」
「…………」
「あっ、良かった~……はい、冷えピタ」
前髪を上げて貼ると、なんだか懐かしく見えて、笑ってしまった。
睨まれたけど、レンズの奥の目にいつものようなキレはない。
心なしか少し潤んでいるような…?
真っ黒な瞳は霞がかかったように輝きがなくて、心配になった。
……あ、肇のパパママに知らせなきゃ。
「あたし、ちょっと隣に行ってくるね」
そう言って立ち上がると、手首が鋭い熱に引き止められた。
びっくりして振り返る。
「……どこ行くんだよ」
「…ど、どこって、肇のパパママに知らせてこなきゃ」
「…電話でも、出来るだろ……」
「…わかった、電話するね」
納得して、その場に腰を戻した。
確かに、ここまで送ってもらった意味ないしね。
……でも、たった数メートルなのに、心配しすぎじゃない?
ちょっと疑問に思いながら、スマホを耳に当てた。
その後即席でお粥を作ると「まぁまぁだな」というお言葉。
「なるほど、あたしも腕が上がったってことね~」
「誰が言ったんだよそんなこと」
変わらず悪態をつく肇に薬を飲ませて、寝かせる。
お客さん用の布団を掛ければ、もう立派な寝床。
本当はベッドがいいんだろうけど、流石に2階までは運べない。
そっとメガネを取るとかなり幼くなって、ちょっと、少し、本当に少し、見惚れた。