真面目なキミの、
枕元にアルコールランプを置いて、部屋の電気を消した。
起き上がった肇が、静かに口を開いた。
顔は、正面を向いていてソファに体を預けているから、あたしには見えない。
「……避けてごめん」
「何よ、今更」
「お前がうちに来たの知って、やっぱり謝らないといけないと思ってここ来たら、彼氏とデートとか聞くし…はぁ……」
「……やっぱり、肇は先輩と付き合うの、反対、なんだ?」
つい探るような目線を送ってしまう。
肇は目だけでこちらを一瞥すると、また正面を見た。
「……あぁ、反対だよ」
「理由、聞かせて?」
「……あの人は、確かにいい人だけど…」
「え、何か、あるの?」
つい、身を乗り出してしまう。
だって、先輩はあんなにいい人なのに……
ただのくだらない噂とかだったら、無視して寝てやるんだから!
「浅井先輩は、恋愛に関していい噂がない」
「……ただの噂でしょ?あたし、信じないよ」
「浅井先輩にフラレた女子が、大抵俺のところに流れてくんだよ」
「……え、ただの嫉妬かなんか?」
「違う、ただの迷惑」
こちらに向けられた目には、分かりやすく怒りが浮かんでいた。
強い怒りに、少したじろいでしまう。
そ、そんな怒る…??
「そいつら、フラレた時の話をする時、めちゃくちゃ怖がるんだ。フラレるのは、付き合ってから、大抵1週間から2週間のあいだ」
「……え?」
怖がる……残念がるとか、悔しがるとかじゃなくて?
え、待ってよ。
…とっかえひっかえってこと…?
どうしてそんな、短期間で…?
聞いたことのない情報に、愕然とする。
「しかも、告白は全部先輩から。……それだけしか、そいつらは話してくれない」
「……ただの、僻みだよ」
「お前がそう信じたいなら、それでいいと思う。お前が幸せなら、俺は何も言わない……」
そこまで言い切ると、肇は辛そうに息を吐いた。
……心配、かけちゃったんだね。
やっぱり肇は、その時自分が正しいと思うことをする人。
だからこれも、肇なりに良かれと思っての忠告なんだよね。
「あたし、幸せだよ。今日のデートも楽しかったし……あのね、今度お家デートするの!」
安心させたくて、言ったつもりだった。
デートのことを思い出して、たぶん、幸せそうな顔をしていたはず。
――――……それなのに、なんでそんな顔、するの…?
今まで見たこともないような、苦しそうで、歯がゆいという顔。
胸が、きゅうっと締め付けられる。
「……あ、辛いの?氷枕、持ってくるね」
「………行くなよ」
突然、低い声に引き止められた。
何かが抑圧されたような…声。
「へ…?」
「…行かないで、ほしい」
「………」
「…風邪、伝染ったら、行かないよな…?」
「ちょっと、はじ……」
肇の右手が伸びてきて、あたしの頬に触れる。
濡れた瞳で射抜かれて、何も言えなくなった。
溶けてしまいそうなほどその手は熱くて、あたしまで熱に浮かされたような感覚。
人形のようにただされるがままだった。
そして、壊れ物に触れるように柔く頬を撫でた手はするりと後頭部に回って、そのまま引き寄せられた。
抵抗しようと思えば出来たのかも知れない。
でも、気がつけば、2つの影が重なっていた。
触れた唇が本当に熱くて、脳がくらくらと揺れる。
体全部が心臓にあわせて脈打つようで、苦しい。
「……っ、」