真面目なキミの、
必死に目を開いて、睨みつけた。
すると、少しして苦しいくちづけが途切れた。
「つまんねぇなー」
ニヤリと笑った先輩に、嫌な予感が瞬時に脳内を駆け抜けた。
瞬間、
「っ!!!!」
ネックレスが引っ張られて、切れた。
切られた瞬間は、息が詰まったように呼吸できず、その後は首のうしろがじんじんと痛んだ。
「ほら、簡単に切れた。こんなもんだよ。誰かと誰かの繋がりも、こんなもの」
あたしの目の前で、片翼が揺れて、そして、部屋のどこかへ飛んでいってしまった。
睨もうと先輩を見たら、その瞳は哀しみに染まっていた。
ついに、ひと粒の涙が溢れた時。
先輩はまた蔑むように、嘲笑う。
「もっと泣きわめけよ」
――――………ピンポーーン…ピンポーーン……ピンポンピンポンピンポーーン……
「うるっせぇな…」
しつこいインターホンに舌打ちをすると、先輩は腰に巻いていたベルトを引き抜いて、それであたしの両手を纏める。
きつく締められて、血が止まる感覚がした。
そして両足は、近くにあった電気コードのようなものが巻きつけられた。
そうして先輩は、あたしからようやく離れて、玄関の近くの壁にあるインターホンに話しかけた。
「どちら様ですか?」
びっくりするほど先ほどとギャップのある声に、背中が粟立った。
どうやって使い分けてるの……
インターホンから聞こえたのは、「お届け物です」という、やや高めで、よく通る声だった。
でも、聞き覚えがあるような気がして耳をすましていると、そこで会話は終わってしまった。
先輩が短く「早めにお願いします」と言って切ってしまったからだ。
「変な気起こしたら…どうなるかわかってるよな?」
くるりと振り返った先輩は、前半は作った声、後半は素の声で忠告してきた。
……どうにかして、ここから出なきゃ。
でも、どうやって…?
あたしには、男に勝てるような力は無い。
更に、手も足も思うように動かせない。
……考えなきゃ、ここから出る方法。
ここに来るまでで見たもの、聞いた音、頭の中で総ざらいしてみるけれど、何一つとして、あたしの助けになりそうの物はない。
そもそも、あったとしても、あたしじゃ気づけるかどうか……
……引っかかるもの…
一つ、頭に浮かんだことがあった。
…でも、もし違ったら…更に酷いことになるかも知れない。
でも、これがもし最後のチャンスだとしたら……やらない手は、ない!
信じよう…!!
―――――……ピンポーーン…
ガチャリ、扉が開かれる音に合わせて、大きく息を吸った。
どうか……お願い。
全力で、あなたを呼ぶから。
「はじめ!!!助けて!!!!!」
次に、玄関の方で、何かがぶつかる音と、うぐっ、という苦しげな声がした。
…足音が、こちらに向かってゆっくりと近づく。
ぎゅっと目を瞑って、覚悟を決めた。
どんな結末でも、後悔なんてしない…!
「……和香、ごめん…遅くなった」
あたしの耳に届いたのは、大好きな声だった。
ゆっくりと顔を上げると、大好きな、あたしの幼なじみがいた。
「…っ、遅いよ、肇…!」
どうしてだとか、今そんなのはどうでも良くて、ただ助けに来てくれたことが、嬉しかった。
その顔は、少しだけ疲れているような気がするけれど、分かりやすく安堵の色が見えた。
起き上がって駆け寄りたいのに、手足に巻き付く物に邪魔をされて、もどかしい。