真面目なキミの、
無理に解こうとしたら更に締まったような気がして、手首に強い痛みが加わった。
思わず、口から苦痛の声が漏れた。
「今解いてやるから、待ってろ」
「…ぁ、先輩は?先輩はどうしたの?」
「あぁ、一発で伸びたから、キッチンに運んだ」
「の、…え、殴ったの?」
「傷が残るような殴り方はしてないけどな」
「……それどうやってやるの?」
「顎を横から殴ると、脳震盪を起こすんだ。まぁ、しばらくは立てないだろうから、安心しろよ」
聞いてみたけど普通にわからなかった。
……それにしても、
「……良かった…肇じゃなかったらどうしようって……」
ほっとしたら、勝手に目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
あたし、肇の忠告無視したのに……あたしが、撒いた種みたいなものなのに……
「……取れた」
両手と両足が開放されたあたしは、肇に抱きついた。
その熱は、あの先輩と変わらないもののはずなのに、遥かに優しく、あたしに安心をくれた。
「肇…ごめんね……」
あの時、ちゃんと肇の言葉を信じていれば、こんなことにはならなかった。
嗚咽を堪えようと、奥歯を噛みしめて、肩口に顔を押し付けた。
あたしの背中に肇の腕が回って、更に涙が溢れた。
「あたしが…悪かったんだよね。ごめんね…本当に、ごめんなさい……っ」
「………ケガはないか?」
「無いよ。全然大丈夫…!」
「……嘘つけ、首に跡が付いてるし、手も真っ白……全然、大丈夫じゃねぇだろ…」
背中に回る、いつの間にか逞しくなった腕。
きつく抱きしめられて、その大きな体が震えていることに気がついた。
「は、じめ…?」
「よかった……もう、お前の笑顔、見られないかもって…」
「……ごめん…」
何も言わずに首を横に振る肇を強く抱きしめてから、あることに気がついた。
「……あっ、あたし、ネックレス…!」
「ネックレス?」
「肇がくれたネックレス!切られちゃって…それで、どこかに投げられて……」
ぱっと体を離して、床に膝を付いた。
どうしよう、大切なネックレスなのに……
姿勢を低くして床一面を見渡してみるけれど、どこにも、あの片翼は見当たらない。
「このままここにいるとアイツが復活する、早く出るぞ」
「でも…!」
「大丈夫だから、ほら」
肇は私の荷物を片手に、もう一方の手をあたしに差し伸べた。
渋々手を重ねると、引き上げられて、そのまま引っ張られて歩きだした。
キッチンを見ると、先輩が倒れていて、ギョッとする。
今にも動き出しそうで、慌てて視界から外した。
「さっき俺が玄関を見た時お前の靴はなかった」
「え…!?」
「本当、生徒会長は恐ろしく策士だな」
「そ、そうなんだ?」
やっぱりよくわからなかった。
策士というより、かなりゲスだと思うよ、あたしは……
「たぶん…ここら辺に……あ、あった」
靴箱を開くと案外簡単に見つかって、そのまま助け出された。
警察に届けた方がいいかもとは思ったけれど、これで懲りてくれることを願って届けないことにした。
家に帰ると、あたしの早すぎる帰宅に、パパもママも驚いた。
でも、あたしの疲れきった表情から何かを察したのか、何も言わずにお昼を出してくれた。
その日の夕方スマホを見ると、つぐみから新着メッセージが一件。
[是永くん、間に合ってよかった……和香、ケガしてない?]
[あたし、肇に何日に行くかは言ってなかったから、どうして分かったのかすごく謎だったんだけど、つぐみだったんだね。
ありかとう!ケガしてないよ!]
つぐみにも、会ったらちゃんとお礼しなきゃ…
あたし、いろんな人に助けられて、守られて、そればっかり…
申し訳なさが溢れて、ため息に替わった。
[良かった。……大変だったんだよ?是永くんって、本当に真面目っていうか何ていうか…]
すぐに返ってきた返信に、首を傾げた。
語尾には、困り顔の絵文字。
真面目…?
そりゃそうだけど…それと今回のことと、何か関係があるの?
早速聞いてみることにした。
[肇は確かにくそ真面目だけど…それと今回のことと何か関係あるの?]
[関係大あり。是永くん、意外と自分に自信が無いのね~……自分っていうか、恋愛?]
ますますワケが分からなくなって、ちょっとムッとした。
[あたしが聞いてるのは今回の事との関係なんですけど…!]
[私から言うのはアレだから、是非ご本人に聞いて]
最後の絵文字が明らかにニヤついていて、イライラ度は高まるだけだった。
もう何なのー!!何隠してるのー!!?
っていうか、それ何て聞けばいいの…!?
もー!!つぐみさんの馬鹿ー!!!