真面目なキミの、
その目の鋭さが明らかに一般の男子高校生じゃなくて、笑いそうになった。
肇くんは良いヤツだから、基本的に暴力はしないって分かってる。
だから笑えるんだよね。
「……どこが分からないんだよ」
肇は、ため息混じりに、ものすごーく面倒くさそうに聞いてくる。
ほら、結局良いヤツ。
私は、元気よく言い放った。
with 満面の笑み。
「ベクトル全部!!」
あたしの輝かんばかりの笑顔を見た瞬間、肇は頭を抱えた。
「…ごめん、他あたって」
「はぁ~?自分で教えるようなこと言っといて何それ」
「教えるとは言ってねぇよ」
「…あーあ…こんな冷たい幼なじみじゃなくて、優しくてイケメンな彼氏が欲しいよ~!」
唇を尖らせて、また寝転んだ。
これ、最近のあたしの口癖。
だって、一生に一度の女子高生だよ!?
おしゃれして、友達いっぱい作って、恋して……やることたくさん!
だから数学なんてやってる場合じゃない!
こんな、天気のいい日曜日なのに、テスト期間だからって!一日引きこもって数学なんて!
あ り え な い !
「……彼氏、欲しい」
「バカに彼氏は難しいんじゃないか?」
寝ころんだあたしを見下ろして、メガネを押し上げる。
さすがにカチンと来て、勢いよく起き上がった。
「もう!本っ当失礼だよね!!」
「幼なじみに失礼も何もねぇだろ」
「はぁーん?親しき仲にも礼儀ありって言葉を知らないのかねキミはぁ??」
あたし、数学は嫌いだけど、国語とか歴史とか、文系の教科は好き。
……っていうか、国語がちょっとだけ苦手な肇に自慢したくて、勉強してるってだけなんだけどね?
うふふ~でもこれはヒミツ。
得意げな顔を近づけたあたしの額に、肇の長い人差し指が伸びてきて、私の額の真ん中をつんと押した。
少しびっくりして額を片手で押さえていると、肇はメガネを押し上げて言い放つ。
「お前に敬意を示す必要性なんて感じないなぁ」
「……滅んでしまえクソメガネ…」
「彼氏云々より、成績上げろよな。教えてる俺が悪いと思われんだろ」
「分かってますぅ!!」
余裕な笑みを浮かべるくそ真面目を「いーっ!」と睨むと、邪悪な笑みを深めて、また数学の問題へと向かっていった。
肇の目は切れ長で、笑うと無くなる。
……それが怖かったり、逆に好きだったり。
ため息をついて、またまた寝転んだ。
肇が睨んでいる気配を感じるけど、気にしないで目を閉じた。
あたしたちは、いっつもこんな感じの幼なじみ。
肇はそのまんま、生徒会執行部なんか自分から立候補してやっちゃうくらいのクソ真面目。
3年になったら生徒会長になりたいらしい。
成績も優秀。
一番得意なのは数学だけど、他教科もなんなくこなしてみせる。
それこそ、体育も。
メガネが知的でステキ!なんて女子からチヤホヤされてる。
あたしには結構当たり強いくせに周りの女子には優しい。
外面いいなこの野郎!!
しかも運動神経もいいって…神様は一体何をお考えなのか……