真面目なキミの、
、愛情表現
「クラスごとに並んでくださーい」
町外れの竹やぶ、カラスが影のように舞い鳴く夕暮れ。
p.m.8:00、夏休み恒例の肝試し大会が幕を開けようとしていた。
うちの学校は夏休みに生徒会主催で肝試し大会を行う。
肝試しと言っても出てくるのは日本の妖怪に限らず、ゾンビ、ジェイソン、ドラキュラ、フランス人形……薄暗い竹やぶで見れば、ぶっちゃけ何でも怖い。
あくまで自由参加だから、皆が参加するわけではないけれど、その完成度の高さに期待してやって来る生徒も多い。
……しかも、今年は生徒会の顔レベルが高い……
肇は、今年は何やるのかな?
あたしは怖いのは苦手だけど、肇がどんなに怖い格好してても一発で気づけちゃうから肇だけは怖くない。
1年の時は、かなーりリアルなゾンビ。
ただのイケメンゾンビで笑っちゃった。
……その後ゾンビより怖い顔で睨まれたけどね。
正直、来ようか迷った。
道の途中で先輩に会っちゃったらどうしようって。
どんな顔したらいいかわからないし、正気でいられる自信がない。
……でも、肇から来たメッセ。
[今年は絶対お前を泣かせる]
そして……――――胸元で光る片翼。
今朝目が覚めたら、枕元に細長い箱。
中は、昨日あたしが先輩の部屋で失くしたものと同じデザインのネックレス。
でも付けてみると違和感があって、向きが逆なことに気がついた。
もしかして……って、思ってるけど、会ったら聞いてみようかな。
無意識に頬を緩めながら片翼を撫でた。
つぐみからのメッセの事とか、ネックレスの事とか…聞きたいことはたくさんある。
「絶対に吐かせる」
ぽつり呟いて、密かな笑みを浮かべながら、ペアのくじ引きの結果を待った。
……それにしても、絶対に泣かせるって…もっと他に言い方あったよね…?
くじ引きの結果!
同じクラスの男子、松本くんに決まりました。
「よろしくな、新田」
「うん」
松本くんは、一言で表すならばそう、チャラい。
明るめの茶髪に、耳に開いたかなりの数のピアス穴……たまに先生に注意されているところも見る。
悪い人では無いよ、悪い人では無いけど、かなりの女好きって噂も良く聞く。
たまに話しかけられて、気軽に答えるくらいの普通~のクラスメイト。
まぁ、一緒にいる女の子はいつも違うんだけどね……
「和香は、こういうの得意?」
「…あ、ううん、怖いのはちょっと苦手かな…」
「俺がいるからさ、安心してよ」
そう言ってウィンク…様にはなっているけど、いきなり下の名前を呼ばれてぎょっとした。
肇ならこんな時…置いてくぞビビリ、とか暴言吐いてから、あたしの手を引っ張ってスタスタ歩いてくんだろうな。
くそ真面目に、面倒見てくれる気しかしない。
思わず苦笑にも似た笑みが漏れた。
誰といても肇のこと思い出すあたりで、答えは出てたのに、どうしてここまで気づかなかったんだろ……
少し経つと、あたしたちの順番が回ってきた。
「ほら」
「?」
入り口で差し出された手に、戸惑ってから「手をつなごう」という意思表示に気がついた。
「別に大丈夫だよ~」
「強がんなって」
「……」
結局強引に手を掴まれて肝試しスタート。
前までは誰と手を繋いでも同じだと思ってたのに、今は違和感しか感じない。
どうにも馴染まない体温が、足りない背丈が、距離感が、不協和音のようにこだまする。
それに耐えながら、薄暗い竹林道を進んだ。