真面目なキミの、
「…お前は夏場になると露出が多すぎんだよ。……つまりは、男だと思わなきゃやってらんねぇってこと」
そう言うと、肇はそっぽを向いた。
「……何それ…?」
目をパチクリするあたしに、重いため息を吐き出した肇は、半ば叫びながらちゃんと教えてくれた。
「はぁ……お前は立派に女だよ!女すぎ!!耐えるこっちの身にもなれってことだよ分かったか!?」
「……え、耐えるって…え!?」
え、何それ、何それ何それ!!?
途端に体の中心から鼓動が煩く叩きつけて、顔が火を吹くように熱い。
少し冷たい手を頬に当てるけど、まるで役に立たない。
すぐに耳まで熱くなってきた。
熱い、本当に熱くて、おかしくなりそう。
勉強しないあたしを部屋から追い出したのも、そういうこと…!?
「……一生言うつもりなかったのに…わかつたか?」
「それは、わかったけど……でも、あの、キスは?」
「キス?さっきの?」
「もう!違う!!風邪引いた時の!」
気がついたら照れ隠しに、ムキになって訂正していた。
「……あぁ、あれか」
「終わってから、間違えたみたいな顔したから、ただ風邪引いて寂しくなっただけだと思って…!!」
思い出して、後半は半分泣きながら肇の胸をどんって叩いた。
「…そりゃ、まだ付き合ってもない相手とキスしたって意味無いだろ。踏むべき手順飛び越えて、焦ったんだよ」
「……本当くそ真面目…」
「悪いかよくそ真面目で」
くっ、いい返せない。
こいつ…開き直りやがって……
あたしはそのせいで泣いたんだよ!?
「つぐみからのメッセは?あのつぐみまで、くそ真面目って言ってたけど」
「あぁ、心配してたのに肝心のお前は幸せそうだったし、お前が幸せならそれでいいと思ったんだよ。……だから、八坂に行かなくていいのかって聞かれたとき、行かなくていいって言ったら急に電話かかってきて…」
「え、電話…!?」
つぐみそんなことまでしてくれたの…!?
これはちゃんとお礼しとかなきゃいけないやつかな……
「それで第一声が、好きならてめぇで幸せにしやがれ」
「…つぐみの方が男前かも……」
そしたら肇は一睨み。
だから睨むと怖いんだって。
「それで目ぇ覚めて、気づいたら走ってた」
「……」
「走りながら色々考えたんだ。もし傷つけられてたらどうしようとか、間にあわなかったらどうしようとか、もしかしたらもう、アホみたいに笑ってる顔なんて見れないかも知れないって」
「……ちゃんと、間に合ったよ」
それは、あたしをあの部屋で抱きしめたとき言っていた言葉だった。
手を取って目をのぞき込んだら瞳がかすかに赤かった。
泣いてるの?って聞いたら、カラコンって逃げられた。
「全然間に合ってねぇよ…結局泣かせた」
強い後悔が語尾に見えて、その手を強く握った。
「忠告を無視したあたしにも否はあるし、何よりこうやって両想いになれたんだもん、きっと大事な出来事だったんだよ」
だから泣かないで、と続けたら、だからカラコンだっつってんだろ、と小突かれた。
こうやって笑い合うだけで、あたしは幸せだよ。
だから、一人で背負わないでよ。
じっと見つめていたら、肇はうなじに手を当てて、繋いでいた手を引いて歩きだした。
「あ、このネックレスは?」
胸元から引き上げた片翼を見せようとしたら、足元気をつけろよ、って、過保護すぎ。
「左右逆だったろ」
「うん、これってもしかして…」
「去年お前に買ったとき、俺も買ってたんだ」
…こんなに照れまくるの、初めて見た。
まぁ、照れてる顔はあんまり見せてくれないんだけどね。
それにしても、あたしの知らないところでお揃いだったのか……
「……ねぇ、肇って、あたしのこといつから好きなの?」
「…それ、言わなきゃ「ダメだよ」
頑張って背伸びして、顔をずいって近づけた。
そして、ニタァって笑ってやった。
「今後の立場を左右するからねぇ」
「……絶っっ対言わねぇ」
肇はあたしの顔を見て数秒、ぱっと手を離して、早歩きで行ってしまう。
「えぇーー??」
肇が早歩きだから、必然的にあたしは小走りになる。
「……無理だから、本当無理」
「そんなに前から好きなのぉ??」
「うるせぇな」
「もしかして、」
生まれた時からとか。
そう続けるはずだった言葉は、一瞬で重なった唇に吸い込まれていった。