真面目なキミの、



……あれ……ネックレス…?

でも確か、さっき外して…


「っ、肇…!これ…!!」


俯いていたからこそ見つけられた、これはあの部屋で落としたあたしのネックレスだ。

肇の片翼と合わせると、翼が揃うデザイン。

穏やかに頷いた肇を見て、泣きそうになった。

もう会えないと思ってたよ…


「さっき先輩が返してくれた」

「……先輩が…?」

「……」


肇は、あたしの言葉にコクリと頷くものの、なんだかスッキリしない表情。


「……先輩は、ごめんね肇くん、それだけ言って返してくれた。もう俺も、どれが本当の先輩なのかわからなくなってきた。なにか複雑な事情があるのかもな」

「そっか…」


あたしの心に確かな爪痕を残した浅井先輩。

"人と人との繋がりなんてこんなもの"

このネックレスを引き千切ったときの先輩の言葉に、何か意味があるのだとしても、もうあたしは関われない。

いつか誰か、浅井先輩を受け止めてくれる人が現れることを祈るしかない。


「もうすぐ出口のちょっと前に出るから」


少し沈んだ気分のまま、また手を引かれて歩きだした。

先輩が爪痕を残したのはきっとあたしだけじゃない。

今までの女の子もそうだけど、肇もその被害者なんじゃないかな。
いくら、たくましい腕や広い背中があっても、心はあたしと同じように在るはずたから。

あたしだって、本気で好きでもないのに先輩と付き合って、多少振り回したから、ちょっとは同罪かな。

まぁ、いつもその被害にあってるのは肇なわけなんだけど……


「肇は、あたしのヒーローだよね」

「…おかげで毎日大変だけどな」

「ふふふ、安心してよ~これからもずーっと続くから」

「ヒーローも楽じゃねぇな……片時も目が離せないとか」

「片時も…?」

「お前なぁ…偶然毎回ヒーローになんてなれるわけないだろ」


そう言って、肇はやれやれと息を吐く。


「……そんなにあたしのこと見てるんだぁ?」


ニヤリ、おちょくったつもりだった。

歩きながら、企みながら、手を繋ぎながら。

いま星空を仰ぐ肇は、どんな反応するのかな。


「……そりゃあ、お前以外見えてねぇよ」


ニヤリ、同じ笑みを返されて、予想外の言葉に耳が熱くなった。


同い年なのに、あたしはこんな色気出せない。

楽しみにしてたのに…反撃しないでよ!!

しかも何そのくっさい台詞!!


「さっき空見てた!」

「空はお前以外の女なのかよ」

「乙女座は乙女でしょ!!」

「あぁ~たまには面白いこと言うな、お前も」

「一言余計だし失礼だしなんでそんな台詞似合うの…!!」

「……ってか、お前で手一杯だからな」

「…!?…あたしの胸きゅんを返せ…!」

「……あーあ、このまま出口行くのめんどくさいな」


ぐーんと伸びをした肇は、本当にめんどくさそうに呟いた。

あたしのこと無視した上に、まさかのビックリ発言ですね…?

まぁでも、まさか次期生徒会長様はサボったりなんてしないよね~

もう少し2人きりでいたいなんて思ってるのは、どうせあたしだけだろうし。


その予想に反して、彼はいたずらっぽく口角を上げた。


「……バックレるか」

「っえ、くそ真面目がそんなことしていいの…?」

「くそ真面目は誰かの兼業ヒーローだから疲れるんだよ。たまには息抜きさせろ」

「……一緒にいると疲れるってことですね。じゃああたし一人で行きますっ!」


子どもみたいに拗ねて、大きく踏み出した一歩。

引き留めてくれるなんて期待はしてない。

なのに、あたしの背中に投げられたのは


「ばぁか」

「はぁ…!?」


そのたったの二文字だった。

突き放すわけでもなし、引き留めるわけでもなし。

…ただ単にイラッと来た。


この時点で、また足は止まっていた。


「遠くに行かれると、お前が今何してるとか想像しにくくなるんだよボケ」


事もなげにサラッと言われて、あたしの頭の上には感嘆符に疑問符。

更に最後の2文字に怒り度合いが高まる。


「それで今まであたしのこと見つけ出してたの!?」

「お祭りではぐれたら、通ったリンゴ飴の屋台の周りを探すと大抵いたし、そうじゃなかったらアクセサリー」


まさかのパターン化。

かなり単純な理由に愕然とした。


「あたしってそんなにわかりやすい…?」

「あぁ、ありがたいくらいにわかりやすい。……でも困ったことに迷子の天才なんだよ」

「天才の使い方間違ってない…?」

「間違ってねぇよ。どんなに気を配っても、見てても、気がつけば隣にいねぇんだもん…」

「……それは、ごめんなさい」


あたしの超素直な謝罪を聞いて、別にいい、と一蹴。

彼はまた星空を仰ぐ。


「……いつだってお前のこと考えてるよ。
俺のいないところで困ってないか、泣いてないか。過保護だって言われたっていい。
お前は真っ直ぐだから、横道にそれる心配はなくても、道のど真ん中で何かにぶつかってる事はある。
まぁ、俺のとこには真っ直ぐに来てくれなかったけどな」


苦笑気味に、星空からあたしに視線を落とした。

あたしを見つめる瞳には、たくさんの星が浮かんでいるように思えた。

近いようで遙か遠い場所から、いつも光を運んでくれたあなたのように。


「お前が先輩と付き合うことになったときも、噂を伝えたときも、悲しいけどそれでお前が幸せならいいと思った。
……けど、やっぱり違う。俺以外の男と幸せになってるお前を見ても、純粋には喜べない。祝福も出来ない。
俺が、和香を幸せにしたいから


……ずっと、俺の手の届く場所にいてくれよ」



その笑顔は儚くて、どこか自信なさげだった。

少しハの字の眉に、控えめに上がった口角。

また、初めて見る顔。



傍から見れば、幼くてちっぽけな願い。

何の誓約もない、保証もない言葉。

でもそれは、あなたの精一杯で最大級の愛だから。

いつだってあたしを見守ってくれたあなたなりの、強くて優しい愛の言葉。

自分に自信があるようで、でもその根底にあるのは、少し自信なさげな笑顔だった。

きっと大丈夫。

保証は無いのにそう思えるのはどうしてなんだろう。

本当はちゃんとわかってる、肇だからだよね。ずーっと一緒にいて、あたしの悪いところも、良いところも、丸ごと何でも知ってる。
その上で、こうして好きでいてくれた。

楽観的で、よくつまずくあたしを、こんなに強く愛してくれている。

そして、あたしから目を離さずにいてくれる。

何回でも守ってくれた。

そんなあなたがいれば、あたし怖くないよ。


だから……――――





「ずっと、あたしのヒーローでいてね」



大好きだよ、肇。

涙に滲む視界の向こうで、花が綻ぶような笑顔が見られた気がした。





あたしの幼なじみは、くそ真面目で意地悪で過保護。


そして今日から、あたしだけの彼氏。



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