真面目なキミの、
、見えない心






「あたし…夏休み無いかも……」

「また数学の勉強サボったんでしょ~?」



テストが終わり、もう夏休みモードの教室の中、一人重いため息を吐き出した。

そこに、親友の八坂 つぐみ(やさか つぐみ)がとどめを刺す。

……なんか、あたしの周りって、あたしに対して当たり強くない?

肇といい、つぐみといい…泣くよ?

つぐみは、項垂れる私の肩をぽんぽん叩く。


「でも阿部ちゃんは優しいから、提出物頑張れば成績は大丈夫かもね?」


阿部ちゃんとは、うちの担任の数学教師。


そう言って励ましてくれるつぐみも、結局は優しいよね~

……なんか、あたしの周りっていい人ばっか?

まぁ、類は友を呼ぶって言うしね、うんうん。

一人ご機嫌なあたしは、この直後、また落ちることになる。


「つぐみ」


教室の入り口で我が友を呼ぶのは、その彼氏。

最近やっと思いが通じ合った2人は、幼なじみなのである。

幸せオーラ全開デスネ……


「あ、迎え来た。じゃあね和香」

「またね」


幸せそうな笑顔に、少し染まる頬。

手を振りながら戸口に向かう笑顔は、恋する乙女そのもの。


「いいなぁ…」


ぽつりと、誰にも拾われない本音が漏れて、床に落ちた。

元気に振り返した腕も、力なく垂れる。

夏の匂いを吸い込んで、吐き出したら、ため息みたいになった。


同じ幼なじみなのに、あたしと肇とは正反対。

あたしたち、悪口言ってばっかだし、どっちも、ムカつくと口より先に手が出るし。

…何でなのかは分からないけど、最近、「女じゃない」って言われると、なんかこう…もやもやする。

……まぁとにかく、肇は無い。


あ、肇って言えば、ノート返さなきゃ。


肇のまとめるノートは、驚くほど分かりやすくて、何より男子とは思えないレベルで字が綺麗。

だから毎回テストの前は借りている。


手早く荷物をまとめて、教室を出た。

確か今日は…生徒会の仕事あるから先に帰っといてとかって。

んじゃあ、生徒会室かな。


廊下を歩きながら目に入るのは、一緒に歩くカップルやら、中庭にいるカップルやら。

とにかくカップルが目につく。


「いいなぁ…」


つぐみに彼氏が出来たときぐらいから、更に羨ましく映るようになった。

一生懸命に相手を想って、手を繋いだり、何でもないことで笑いあったり、少女マンガの中の女の子はいつもキラキラ輝いていて。


恋に恋してるだけだろ。

って肇は言うけど。


……そんなんじゃない、はずだけど。


ため息を付いて歩いていたら、人気のない廊下、小走りに俯く女子とすれ違った。

目が合ったけれど、すぐにその人は目を逸らして、通り過ぎていく。

あたしは少し歩いて、振り返った。


美人なその人は、泣いていて。

ちょっと大人っぽかったから先輩かな?


一瞬の出来事だったのに、綺麗な泣き顔が脳裏に染み付いた。



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