あなたの声が響くとき







「――……………はぁ、、」



何度目か分からない、重苦しいため息。

お昼休み、滅多に人が来ない屋上……への階段に座って、一人パックのジュースを飲んでいた。

"春季限定さくらんぼフレーバー"

と大きく書かれた文字とロゴ、そして美味しそうに写るさくらんぼと、その他のフルーツ。

写真はイメージです……まぁ、跡形もないしね。

商品名と自分のテンションの差に虚しくなった。


「トロピカルではない……」


昨日のことを思い出すまいと必死に現実逃避を繰り返す。

そんな日々に逆戻り。

昨日は家に帰ってから、冷静になって考えて、本当に後悔した。

知らないのなんて当たり前なのに、ことがことだけに感情を抑えられなかった。

責めるつもりなんて無かったのに。

それに、叩いてしまった。

自分の右手を見つめて、また、ため息。

叩いた時はじんじんと脈打つように痛かった。

その時初めて、叩いた方も痛いんだと、知った。


ダメだ、また泣けてきた……

腕で目元を覆って後ろの踊り場に倒れ込んだ。


涙の理由は主に二つ。


一つは、昔のことをどうしても思い出してしまうから。

もう一つは、東条くんの言葉が図星だったから。


本当にそのままだった、逃げたんだ。

嫌なことには蓋をして、確かにそこにあると知っているのに、知らないふりをした。

全部全部、蓋をして逃げた。

……でもそれが、その時の私の精一杯だったんだよ。

向き合ったら自分が壊れてしまいそうで、ただ守るだけで精一杯だった。

……そっか、我が身可愛さに逃げたんだ。


本当に弱くて、こんなんじゃ、東条くんにあんな風に言われても仕方ないよね。


外に出たくない。

もう誰にも会いたくない。

音楽なんて聞きたくない。

私の世界には私だけでいい。


そんな馬鹿なことを考えるくらいには、かなり思考がやられていた。

でもこうして、半ば意地で持ちこたえて学校に来た。

さすがにクラスで人に合わせて笑う元気はなくて、今ここでこうして一人、涙を堪えている。


息を吸って勢いよく起きあがると、ストローを噛んだ。

人気のない踊り場に、残り少しのジュースを飲む、あまり上品とは言えない音が響いた。




―――…そして放課後がやってくる。


太陽が、有終の美を飾ろうとその日の力を使い果たすように輝いて、私の顔も肩もスカートもすべてを照らす。


私は、校門にいた。


せめて一言、謝ろうかと思った。

思ったけど、でも、怖くて結局やめた。

だからこそ今、校門にいる。


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