あなたの声が響くとき
泣きそうになりながら、精一杯笑った。
謝罪は先を越されたけど、それでも、ちゃんと姿を見て、伝えられた。
伝えるための努力が出来た。
そして彼のことを、もっと知ることが出来た。
初めて目が会ったとき、東条くんに言われたこと。
私が、どうしたいか。
「私、もう一度音楽やりたい。東条くんと、トランペット吹きたい!」
「……」
東条くんは、軽く頷いた。
心強くて、ついにひと粒、涙が溢れた。
「やればいい」
「っ…うん!!」
――――――……そして、5月。
「じゃあ、これで紹介も終わったし、基礎練始めます」
『はい!』
「葛西さん」
「はいっ」
北見先輩が突然立ち上がって、私に微笑みかけた。
私は椅子に座ったまま少しキョトンとして見てしまう。
「今日から、そうだね~、りつ!」
「え、あっはい!」
私のクラブネームが決まったらしい。
そこから先輩は、満面の笑みを輝かせた。
「今日から皆家族だと思って、仲良くやってこうねー!おー!」
そして突然のハイなテンションに目を丸くした。
美人で優しくて、お姉さまな印象だった北見先輩……
「ちょっとオカン、騒ぎすぎ。りつビビってるから」
そう、まさに、オカンなような……
別の先輩のツッコミに、皆どっと笑った。
「え~……じゃあ、ごめんね、りつぅ。あ、分かんないことあったら、そこのジョーに聞いてね…」
口を尖らせて、分かりやすくしょんぼりする北見先輩が面白くて、つい私も忍び笑いをしてしまう。
でも次に聞こえたクラブネームと、先輩の見た方向を辿ってみて、更に驚いた。
「ジョー?」
ジョーというのは、東条くんのことだった。
……名前と全然合ってない、じゃん…
そこでついに声を出して笑ってしまった。
「東条く、ジョーって、あははっ、似合わな、い……く、ふふっ」
「おい…かさ、りつ……」
ひとしきり笑うと、目の前には、眉間に見事な峡谷を作り上げた東条くんがいて固まる。
……え、こわい。
そこに明るい北見先輩の声が響いた。
ある意味で空気を読まないというか、本当に、肝っ玉母ちゃん…
「あれ、りつとジョーって知り合い?珍しいね~、でも丁度いいじゃん。
ジョー、りつのことよろしくね」
にっ、と笑った先輩と対称的な、嫌そうな東条くんこと、ジョーの顔。
「……勘弁してください」
トランペットパートは、笑いに包まれた。