あなたの声が響くとき



――――……でも、いざ2組を訪ねてから気がついた。


私は、彼を見つけて、一体何をするつもりなのか。

ドアノブに掛けていた手をゆっくり降ろした。

四角いガラスの向こうには、数人で固まってお弁当を食べている島がいくつか。

でも、窓側に――


―――――……一人、猫背ぎみの黒髪。


彼は、東条響くんは、どのグループにも属さず一人でお弁当を食べていた。

周りの喧騒からは隔絶されているかのように、彼のまわりだけ"賑やかさ"が無かった。


見つけた。

見つけたけれど、そこからの行動を何も考えていなかったことは、さっき気づいた。

明確な目的なんて、無くて。
ただ、どんな人なのか、知りたくて。

今見た限りでは、かなり静かで群れない人のようだ。

そして、自分が一人でいることについて、あまり引け目を感じている様子がない。

……これからどうしようか。

ずっとここで見ているわけにはいかない。

絶対誰かに気づかれる。


そっとため息をついて、その場を離れた。




それから3日ほど、彼と彼の音への好奇心を何処にやればいいのか分からず、ただもんもんと過ごした。


本当に分からなかった。

彼のことを見て、聞いて、知って


………それで?


答えは一向に出て来ない。

我ながら、厄介なことを抱えてしまっている。


「……っあー!もう!」


放課後、いつもの喧騒はどこへやら、ガランとした教室で電車の時間を待っていた。


行儀悪く座っていた机から降りて、なんとなく窓際に向かう。

外の空気が吸いたくなって窓を開けた。

窓の下では、満開を過ぎて見た目の少し寂しい桜の木が、その花びらを風に散らしている。

ひらりひらり、なんて可愛いものではなく、はらはら、或いはばらばらと。

本当に、桜ってどうしてこんなに悲しい。

冬を超えて蕾を膨らませる姿は、本当に健気で力強く美しい。

それなのに、あまりにも散る姿は呆気無い。

だからこそ咲き誇るのかも知れないと、そうは言っても切ない。


……どうして今、桜の儚さを憐れんでいるかって?

A.ただの現実逃避。

小説だからと言って、描写の全てに意味があるとは限らないのよ。


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