あなたの声が響くとき
心臓は今にも破裂しそうで……
「……そう、迷惑」
―――……って、
「へ…?」
「だから、迷惑」
冷水を頭から浴びせられたような気がした。
一瞬にして全てが冷えて、冴えて、あんなに顔が熱かったのが嘘みたい。
気を抜くと滲みそうになる視界の向こうに、澄んだ冷たい目で私を見つめる彼がいた。
「あ、そ、そう、ですよね…」
私、馬鹿だ。
一人で勝手に慌てて盛り上がって。
―――…消えたい。切実に消えたい。
「それで?」
「……はぇ?」
「それで、どうしたいの?」
どう、したいの…?
「………聞いていたい、東条くんの音」
「……好きにすれば」
「っ……うん…!」
「…っえ、なんで、泣いて」
初めてだった。
私、やっと答えが出せた。
大切なのは、"どうしたいか"だった。
本当に馬鹿だ。
こんな簡単なことに気づくのに、どうしてこんなにも足踏みしてしまったのか。
中二の時、どうしてこの事に気がつけなかったんだろう?
そしたら今の私は、もっと幸せだったかも知れない。
そして、普通に高校でも吹部に入って、当たり前に東条くんと出会って、一緒にトランペット、吹いてたかも知れない。
すべては"もしも"だけど、それでも、どうしてもそう考えて、涙が溢れた。
しゃがみこんで泣き出した私の目の前に、紺色が差し出された。
何だろうと顔を上げるとそれは、紺色のタオルハンカチ。
差出人はやはり…東条くん。
顔は一見冷徹に見える無表情、顔から感情は何も読み取れないけれど、厚意からだと言うことは分かった。
その優しさが嬉しくて、でもとても驚いて、目を見開いて東条くんの顔とハンカチの間を視線で往復してしまう。
素直に受け取っていいのか悩む間に、彼は私にそれを押し付けるようにして、再び椅子に戻った。
そして、何事も無かったかのようにまたトランペットを構えた。
紡がれる音は、また、私の胸を締め付けた。
それから30分ほど、休むことなく続けられた個人練習。
私はそれを教室の端っこでずっと聞いていた。
気がつくと、空の端が朱く染まり始めていた。
あっという間に過ぎる時間が短すぎて、椅子から立ち上がった彼の背中をつい、穴が開きそうなほど見てしまう。