ビターチョコをかじったら
おまけにもうひとくち
* * *

(…休日出勤だけは嫌だ…休日出勤だけは…どうしても…無理…。)

 その一心でパソコンとにらめっこをし続けていたが、相変わらずの仕事量に、中途入社の新人の教育まで正直もう限界だった。

(…糖分をくれ…私に!)

 脳みそが悲鳴をあげているのはわかっていた。しかし会社内で思い切りキャラメルマキアートを飲むわけにも、ミルクチョコを食べるわけにもいかなかった。
 しかし今日はもう人もほとんど残っていない。休憩室には誰もいないと踏んで、コンビニの袋を鞄から出した。休憩室に入るとそこには本当に誰もいなくて、紗弥はほっとした。
 あの日からなんとなく気まずくて、相島と二人きりになることをなんとなく避けていた。つまり、残業をほぼしていなかったことになる。そしてたまりにたまった仕事を今日は消化しているのだ。

「美味しい~!」

 ほんのりとした甘さが口いっぱいに広がって、脳みそにもエネルギーを送ることができた感じがする。
 そんな安心も束の間、ドアの開く音がして紗弥はコンビニの袋の中に食べかけのチョコを押し込んだ。

「っ…相島さん…。」
「あー…珍しい。最近残業してなかったじゃねーか。」
「そのツケと、…えっと、休みは死守したくて。」
「なるほどな。お疲れさん。」

 拍子抜けするくらいに変わらない態度に、少しだけ胸をなでおろした。意識しすぎていた自分が馬鹿らしい。こんなことなら変なことを考えずに、日々少しずつ残業をしておけばよかった。あの夜のことを思い出すなんてことも、しなければよかった。大体、相島と自分に恋愛的な要素は最初から微塵もなかったというのに。
 相島しかいないのならば、チョコを食べてもキャラメルマキアートを飲んでもいい。紗弥はコンビニの袋からミルクチョコを取り出し、口に加えた。

「俺にもくれ。」
「?」

 目線だけ、相島の方に向けたはず、だった。
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