ただ、そばにいて。
 国道を横切る信号を渡り、街灯の少ない路地に入る。アスファルトの坂道を上り、公園の手前の道を右に曲がった。
 フェンスに沿って、次は左へ。あとは突きあたりまでまっすぐ歩く。

 左右に戸建が並ぶ古い住宅地。
 年寄りが多いせいか、この時間になるとどの家も窓の明かりは消えている。

 団地の南端にある瑞希の家は、築十五年、北欧風の高気密住宅だ。
 庭のフェンスの向こうは切り立った崖で、眺めはいいが吹きさらしで外はかなり寒い。


 家の敷地に入るまえに、街灯の下で鍵を探す。
 門から玄関まで距離があり、月の出ている夜でさえも暗いのが難点だ。

 いいかげん防犯も兼ねたセンサーライトを付けたほうがいいのかもしれない。
 さすがに、若い女がふたりだけで暮らすには、不用心すぎる。


 カーポートの脇を通り、玄関ポーチへ続く門扉を開けたところで、瑞希はふと違和感を覚えた。

 背丈ほどの高さがある植え込みの陰に、黒い塊が置かれている。

 瑞希は立ち止まり、息をひそめてじっと目を凝らした。
 それは人のかたちに見えた。

 柚月?
 いや、違う。

 柚月は昼には家を出発し、いまは東京にいるはずだ。
 明日のフライトに備えて、東京で前泊すると言っていた。

 だとしたら、これはいったい誰だ。

 目が慣れてくるにつれ、胸の奥がざわつきはじめる。
 アルコールはすっかり抜けているはずなのに、ふたたび頭のなかが真っ白になった。
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