ただ、そばにいて。
 柚月が面倒なことを押し付けてくるのはいつものことだ。
 けれど今回ばかりは「はいそうですか」と承諾するわけにはいかない。
 いくら妹の友達とはいえ、相手は二十歳を過ぎた成人男性だ。
 間違いは、起きてしまってからでは取り返しがつかない。

 瑞希はリダイヤルボタンを押す。
 十コール目が鳴り終わるころ、不機嫌な口調の柚月が電話に出た。

「なんなのよ。私、明日は十七時間のフライトなんだからね」

 まるでこっちが悪いとでも言いたげなセリフに苛立ちが湧きおこる。

「あんたの友達なんて泊めないわよ」

 見ず知らずではないけれど、親戚でも恋人でもない男を家に泊めるなんて冗談ではない。

「べつにいいじゃん。悠斗、料理得意だから便利だよ? せっかく部屋も空いてるんだし」
「そういう問題じゃない」
「めんどくさいなぁ、もう」

 柚月は低い声で悪態をつく。舌打ちも聞こえてきたのを瑞希は聞き逃さなかった。

「めんどくさい?」
「めんどくさいから、めんどくさいって言ってんの。お姉ちゃん、頭かたいよー? いまどき男女のルームシェアなんて普通なんだから」

 腹が立つのを通りこして、あきれてものが言えなかった。
 六歳も年が離れていると、こうも感覚が違うものなのだろうか。
 それとも柚月の言うように、自分の頭が固いのか?

「あ、バッテリー切れる。あとはよろしくねー」
「ちょっと待って、柚月!?」

 ぶつりと会話が中断された。
 そしてなんの解決もしないまま、今度こそ電話がつながることはなくなった。
 どうやら電源を切ったらしい。

 瑞希はため息をつき、力なく夜空を仰ぎ見た。
 人生に波乱なんかいらないと思っていたのに、トラブルはいつだって、勝手に向こうからやってくる。
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